お恥ずかしい話ながら、私は学生の時分に歴史を遠ざけてしまっていた為、最近まで渋沢栄一氏という人物を認識していませんでした。
しかし、機会に恵まれ「論語と算盤」を読んだところ、いたく感激したため書評を書くこととなりました。もともと読書は好みますが、書評を書くのは初めてです。至らぬところ、読み違えなところがありましたら申し訳ございません。
※以下、当然の如くネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
新10,000円札の顔として
貨幣・紙幣マニアとして、私の耳にもこのニュースは届いていました。
2019年4月、現行紙幣デザインが20年ぶりに一新されることが発表されましたね。実際の発行は2024年になる様子です。現行紙幣はそれまでに一揃い、ピン札で保管せねばなるまい。
その中でも特に気になる事案があります。私の知る10,000円は常に福沢諭吉だったのですが、それが刷新されて渋沢栄一氏という人物になるらしい。正直なところ無学な私には津田梅子氏も北里柴三郎氏も存じ上げませんが、10,000円の顔となる渋沢栄一氏くらいは、どのような人物なのかを知っておきたい。そう思うところでした。
現代語訳「論語と算盤」
いかに内容の秀でた書といえど、読み辛いのでは内容が頭に入りません。そこで現代語訳版を読んでみる事にしました。
当初は書店の立ち読みで斜め読みして概要を把握しようと思った程度ですが、読み始めるとページを捲る手が止まりません。気付けば1日で読み切ってしまいました。
現代語訳者の守屋敦氏が冒頭で述べられている通り「噛み砕いて訳し過ぎ」な部分も垣間見られましたが、それも含めて非常に読みやすく、意味がスッと入ってくる様でした。
漢文調の文章を読み慣れている方などには、かえって気に障る方もおられましょうが、現代文を読みなれた軟弱物の私にはこのくらいが丁度良いというところです。
価格:902円 |
価格:836円 |
上が現代語訳版、下はオリジナル版です。
渋沢栄一の波乱溢れる人生
渋沢栄一氏は生まれた時代が激動過ぎたのが災いして、波乱万丈な人生を歩んだ方の様です。
ダイジェストが以下の通り。
1.尊王攘夷の志士として活躍
2.一橋家の家来となった時期
3.幕臣としてフランスを視察
4.明治政府の官僚となる
5.実業家として盛大に活躍
武家の生まれでないのに反骨精神から武士を志したり、文明開化や明治維新に翻弄されながらも、自らの信念を曲げず、卓越した情報収集力で動乱の時代を駆け抜けます。
決して私利私欲に溺れることなく、後の「JR」「みずほ銀行」「サッポロビール」などの名立たる大企業を始め、何と480社ほどの設立に関わるという偉業を成し遂げます。
渋沢氏が私利私欲に走って富を独占しようとしたならば、当然の様に可能であったし、三大財閥をも超え得る勢いであったことに疑いはありません。もしもそうなっていたら歴史は大きく変わっていたのでしょう。
「現代資本主義の父」として10,000円札の顔として抜擢されることに対し何の異論もありません。
倫理と利益
私自身「論語」自体は読んだことがありません。しかし、社会を生きて行く上で「論語」の教えはあらゆるところで耳にし、勝手に肝に銘じてきました。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」「富貴は浮雲の如し」こういった言葉は「論語」が出所だという認識が無いままに、ことわざかな?と思いながら使用していました。
渋沢栄一氏が述べられている事は終始「経営は倫理観と利潤追求のバランス感覚が大事だぞ、論語とソロバンは相反するものではないぞ」という趣旨のもので、近年になって社会全体がこぞって言い出した「企業コンプライアンス」や「企業サスティナビリティ(持続可能性)」に通ずるものと感じます。
栄一氏が述べているのが約100年前の事で、孔子が論語で述べられているのは約2,500年も前の事なんですね。
このことから、世の中の真理は不変なものなのだろうというのが感じられて鳥肌が立ちました。
こうなると「論語」も現代訳版で読まざるを得ないと考えています。
渋沢栄一氏の私生活
このように素晴らしい経歴を歩んできた渋沢氏ですが、女性関係にはだらしなかったというエピソードも紹介されております。
正妻の他に多数の側妻が居られたようで、子供が30人以上居たらしいですね。時代背景を考えれば致し方ないのでしょうが、各方面に元気な方だったんですね。
欠点があるのも人間味があって親近感がわきますね。
道徳と宗教
渋沢氏は、欧米諸国などは大半がキリスト教などの宗教を介して庶民が道徳・礼節などを身につけているが、日本人には根本的に全国民が信ずる宗教が存在せず、武士道の廃れた現代では道徳教育がなっていないと危惧していました。
これは確かに危ういなと感ずる部分はあります。私自身も無宗教である自覚があるのですが、何を規範として道徳・倫理観を身につけているのか、正直拠り所の無い思いはあります。
渋沢氏は一貫して、奇蹟に頼らない「儒教」を信ずると仰られていましたので、私もそれに習おうかなというところです。
私自身、宗教というものには大変興味があり、キリスト教が何故こんなにも多くの人に信じられ、文化にまで大きな影響を与えるのかと考え、書物を読み漁った事もありました。
答えはこの辺にありそうですね。
話は逸れますが、キリスト教の奇蹟、聖書の解釈など、ありえない事象を至って真面目に論ずる学門や、解釈の相違によって異端とされた教徒の弾圧など、宗教の歴史にも面白い部分がありますよね。
個人的にはキリスト教のグノーシス派の考えが好みです。旧約聖書で神を名乗るものと、新約聖書で現れるヤハウェを別物と見なす異端宗派ですね。偽神デミウルゴスなどと言われて創作物に登場したりするアレです。面白い考え方だなぁと感心しました。
※キリスト教の方にケンカを売っている訳ではないんです。気分を害されたらすみません。
総評
私の余計な思想も含む書評となってしまいましたが、現代社会を生きる方々、特に販売業などに携わる方々などには非常にお勧めできる一冊だと思います。ぜひご一読ください。
人生の指標、バイブルと成り得るものだと確信しています。
ではまた。
コメント